2008年のジンバブエから(2009年1月8日)

村井洋介

 

 2007年の末から大統領選挙を巡り対立したムガベ大統領と、最大野党、民主変革運動(MDC)のツァンギライ議長は2008年9月15日、首都ハラレで連立政権樹立の合意書に署名。日本の新聞にも「ムガベ独裁に終止符」「歴史的合意」などと書かれていました。

 これには、超インフレと食料危機に瀕している為、欧米の支援を取り付けるため野党との権力配分に応じた形にならざるを得ないという大統領側の背景があった。調印式には、連立政権樹立の仲介役を務めた南アのムベキ大統領、南部アフリカ開発共同体(SADC)各首脳ら約3000人が出席。新設された首相職に就くツァンギライ氏は「痛みを伴う譲歩だが、平和な民主国家を築く最高の機会だ」と訴えた。

 その連立政権の合意では、ムガベ氏は大統領に留まり、新設で行政上の実権を持つ首相職にツァンギライ氏が就任、内閣を監督する閣僚会議議長を兼任する。連立内閣ではムガベ氏の与党ジンバブエ・アフリカ民族同盟愛国戦線(ZANU-PF)が15閣僚、最大野党、民主変革運動(MDC)が16閣僚を占めるというものであった。しかし、政治的にも実権を握る陸軍、空軍、警察、刑務所、秘密警察のうちツァンギライ氏が支配するのは警察だけで、民主化プロセスには不安を残す合意内容であった。新内閣組織については、首相職の設置に関する憲法改正が持ち越されたまま閣僚が決まるという怪しげな状況であり、更に新政府樹立に向けた組閣は連立政権の主要ポストである国防と内務、外務、司法、地方政府、通信等の14省に大統領派ZANU-PFの議員を指名するといった一方的なものとなり、翌10月にはMDC側は連立合意を撤回する方針を出した。その間も、一部の地域でMDCサポーターとZANU-PFサポーターは衝突、結局は何も変わっていないような状況で、残念ながら新聞が言うような1980年の独立以来の独裁体制に事実上の終止符を打った歴史的合意・・・とはならなかった。

更にそれに追い討ちをかけるようにコレラが蔓延する。政治情勢の混乱が続いているだけではなく、経済的にも崩壊状態に陥っているジンバブエは、首都ハラレも水道水が行き渡らずに衛生状況が悪化、そのような状態ではコレラ蔓延を止める事が出来ず、政府は遂に12月4日、コレラ蔓延で非常事態宣言を発令した。

 今回の非常事態宣言は、他国の例よりもかなり深刻に捉える必要がある。ご存知の通り、既に医療システムが実質崩壊しているジンバブエでのコレラ発生は、有効な対策の取りようのない客観的状勢のなか、蔓延の度合いすら把握不可であり、医療機関が揃っている地域での発生とはおよそ同列に論ずることは出来ない。その為、当地南アで働くジンバブエ人達も年末の帰省を取りやめる者が多くいたようである。今回の非常事態宣言を発令させたコレラ蔓延の原因として、「飲料水と衛生関連物資の不足」「医療システムの崩壊」「政府の対応能力の欠如」と言うものが挙げられるが、小職が南アに移った2005年の時点で既に外貨不足と二重為替経済から経済と共に医療システムは崩壊状態でしたので、現時点では更に酷い状態であることは容易に想像がつく。首都ハラレの大病院ですら医者はごく少人数しか残っていない、看護師も然り、首都ですらそのような状態ですので、地方病院はもっとひどい状況でしょう。基本的にはルーラルエリア(地方の田舎)にはクリニックと呼ばれる医者のいない小さな診療所があるだけですので、重症の場合は一番近くの都市にある病院に運ばれるのが通常ですが、「運搬手段が乏しい」「治療費が払えない」等の理由から病院で診察を受けられる人間はごく僅かです。更に、上記の通り近くの(地方)都市にある病院に医者が居ない、看護師が居ない、薬がない、すなわち病院が機能していませんので、ほとんどが自然治癒に頼るといったような状態だったようです。更に今回の場合は都市に十分な水が無くなっていました。コレラの治療には生理食塩水が絶対的に必要で、少なくとも綺麗な水は最低限必要であったのです。そして、日本の常識では考えられませんが、田舎の方では病気になった場合には医者よりも「Nganga」と呼ばれる祈祷師に頼る傾向も未だに根強く残っていますので、治るものも治らない場合も少なくないと思います。更に家族や関係者はHIV/AIDSやコレラといった感染症を隠す傾向もあります。

 しかし一方で、政府はジンバブエ国内にコレラは発生していないとか、コレラ感染拡大の封じ込めに成功していると発表。更に、コレラを引き起こした原因は西欧諸国であり、コレラの感染拡大は「計算され、人種攻撃的な、米国や欧州各国の協力を得た旧宗主国、英国の力によるもので、我が国の侵略を目指したものだ」と西側諸国、特に英国を強く非難。経済制裁を通じてコレラ菌や炭そ菌で我が国を汚染する西側諸国は、これらの災害をとっかかりにして軍事介入を正当化しようとしている」云々と発表し、世界を驚かせた。

 結局は、苦しむのは一般市民であり、これは戦争と変わらない悲惨な状況に思えてしまう。昨年11月にコレラによる死者が366人・・・という報道から僅か2ヶ月で死者は1500人を超えている。世界中でテロや戦争による死者が報道されているが、テロも戦争も無いジンバブエでそれ以上の一般市民が亡くなっている現実は悲しい。

 この世界的金融危機の中、果たしてアフリカ向け援助は以前の取り決めのような形で進むのであろうか? 日本を始め先進諸国も自国の問題で大変なこの時期に・・・しかし、以前も書いたとおり、アフリカの問題は世界の問題に繋がる現在、どのような対応が世界各国やNGO等に求められるのか? スポーツが国を元気にするのだろうか?

 ただ、こんな時はジンバブエ人の誰かが、何処かで何かをしたという良いニュースは人々を元気にするのかもしれません。頑張れジンバブエ、頑張れジンバブエ野球。