はじめまして

横田直道

 

ジンバブエ野球会の皆様、初めまして。

この度、貴会の村井洋介様よりご紹介頂きましてご挨拶させて頂くこととなりました横田直道と申します。

現在、青年海外協力隊野球隊員として2005年7月(平成17年度一次隊)より南アフリカ共和国に赴任しております。

 

野球と南アフリカ

赴任先となったのは、国土のほぼど真ん中に位置し、牛と羊が自由気ままに暮らす大平原地帯に囲まれたフリーステート州というところです。

南アフリカ共和国では、野球はトップアスリートの育成と同時に、青少年教育の一環としてもその役割を担っています。南アフリカ野球連盟は、底辺層拡大プログラムとしてアメリカMLBから道具の支援を受けており、それが連盟、地域の教育省を経由していくつかの学校に届いています。

九つある州のなかでも、フリーステート州は野球に関しては最も後進的で、道具はあっても野球に対する知識が絶対的に不足しており、指導はもちろんのことルールも分かっていない状況で、初めて目にしたローカルの大会では、ルールをめぐって教員達が大喧嘩を始めてしまうなど、とてもこのスポーツが受け入れられ、発展するという状況にはありませんでした。また道具などの管理も全く出来ておらず、当初配布された道具も紛失や老朽化などで、このままではせっかく根付こうとしている新しいスポーツも消えてなくなるのは時間の問題という印象を受けました。

 

肩透かしの赴任

初めの半年は、ほとんど顔見せに費やしました。というのも、実は野球連盟の要請で出された協力隊の派遣が、肝心の地域の人間に全く知らされておらず、予定や計画などもすべて白紙、もちろん自分にとっては初めての海外生活であり、まさに右も左も分からないまま、配属先の省庁施設にポツンと取り残された所からのスタートでした。その為、まずはとにかく一人でも多くの野球関係者、学校関係者と会って、情報収集・人間関係作りをすることが最初の活動となりました。

多くの学校や地域を訪問する中で、さまざまなことが分かって行きました。オリンピックの出場暦などもあり、ある程度のレベルを予想していた赴任でしたが、それらは道具・環境の整ったごく一部だけの人達のものであり、地域ごとの差が激しく、とくにフリーステートでは前述したような状況が主で、それを改善するための仕組みも全くといっていいほど整っていませんでした。

そんな状況の中でも希望の光を見つけることは出来ました。それは何よりも、子供たちはこのバットとボールを使って走り回るスポーツが大好きで、もっともっとより良い環境を求めているということでした。赴任前に抱えていた様々な不安、赴任後の戸惑い、それらを全て吹き飛ばしてくれたのが、子供たちの笑顔でした。この2年間の意義は、子供たちのこの笑顔な中にあるんだ、という想いが自身の活動の何よりの原動力となりました。

 

歴史の爪あと

南アフリカ共和国は、周知の通り近年までアパルトヘイト政策として法律で人種差別が認められていた悪しき歴史を抱えています。撤廃から10年以上が過ぎた今でも、多くの人々が貧困に苦しみ、明日の見えない生活を送っています。失業率の高さや収入の低さなど、経済面が苦しいのはもちろんのこと、その歴史は精神的な部分にも多くの影響を与えています。

昨年末、州選抜チームによる大会が行われましたが、フリーステート州は当然のごとく大敗を喫しました。普段の野球環境から見れば当然と思われる結果でしたが、そのあと関係者から口々に出るのは、環境改善への反省ではなく、責任のなすり合いばかりで、不満、諦めといった感情で覆い尽くされていました。不当に扱われた歴史の被害者である彼らにとっては、そういった姿勢ばかりが育ってきてしまったのかもしれません。 またフリーステート州では、野球は教育省管轄のもと、学校単位でしか行われていないため、学校教員の協力は欠かすことが出来ません。ただ学校教員という仕事が社会的に低い立場にあり、教員達も自らの仕事に対し、半ば諦めの姿勢を取っている者が少なくありません。始業ギリギリに来て、終業とともに一目散に家に帰る。子供たちが何を望んでいるかなどには目もくれず、ただ自らの衣食住にのみ目が行くという状況では、次の時代を担う人材を育てる教育の役割はもちろん、新しいスポーツを根付かせ、青少年教育として取り入れることなど、ただの夢物語に過ぎません。彼らの理解、協力無しには、野球を通じた青少年教育という言葉に意味を持たせることは出来ないのです。

 

自らの役割

そのような状況の中で自分に出来ることは何かを模索する日々が続いています。

活動の方は、学校訪問指導を基軸としながらも、今年の3月より、地域にある総合運動場の施設を利用して、クラブチームの活動を始めました。

まずはとにかく野球に興味を持っている子供たちにプレイできる機会を提供することが目的です。選抜チームを作る時にだけ無理やり引っ張られてトライアルに連れて来られる、というものではなく、子供たちが自らの意志で、目標を持って物事に取り組む、そういった環境をサポート出来れば良いな、と考えています。

もちろん各学校との連携は不可欠であり、日々の練習、ゲームの中から野球というスポーツの面白さを伝え、子供たちの成長の様子をアピールすることで、教員達の心の中にもその役割の大切さを訴えかけていきたい。子供たちには、日々の積み重ねの大切さ、簡単に諦めない姿勢、勝つことの喜び、負けることの悔しさ、様々な経験を肌で感じてもらいたい。

中々こちらの思うところが伝わらずに試行錯誤の連続ですが、ここで鍛えた子供たちを中心に州選抜チームを率いて、野球と言うスポーツを通じた感動体験を現地の人々と共有すること。それが今の自らの願いです。

 

つきましては、今後におきまして、貴会のご協力をお願いする機会もあるかと思われます。

アフリカの片隅で、自ら野球を生活の中に取り入れることを選んだ子供たちの意思を、一人でも多くの方々に応援して頂けると嬉しく思います。