アフリカの命

村井洋介

 

  新型インフルエンザの世界的な流行-

報道では毎日どの国で感染者が何名、死者が何名と世界中で克明に報告がされています。

国連機関の下部組織であるWHO(世界保健機構)は早々に警戒レベルを上から2番目の「5」に引き上げを発表し、日本政府も「感染症危険情報」を発出、民間企業も海外出張の自粛等の措置を採るなど世界的な予防が広がっています。

 

 「マラリア」は熱帯地方に生息するハマダラ蚊のメスに刺されることで感染します。一部のハマダラ蚊のメスは体内にマラリア原虫を宿しており、吸血する際、この原虫を人間の体内に送り込みます。WHOの推計によると、世界で年間3億人~5億人が感染し、毎年150~270万人が 死亡しています。その死亡者の大半は、サハラ砂漠以南のアフリカ(サブサハラ・アフリカ)の5歳未満の子供だと考えられています。アフリカ大陸では、北アフリカの国々と南アフリカ共和国以外の大陸全域が、マラリア感染危険地域です。

幸運にも私はアフリカ生活18年になりますが、これまで一度もマラリアに罹患していません。居住地ベースがジンバブエのハラレ(海抜1500m)と南アのヨハネスブルグ(海抜1600m)というマラリア危険地域外に居住しているからです。

 

 しかし、サブサハラ・アフリカの人口8億人の大半が、マラリア危険地域に住んでいます。マラリアは予防薬を服用することで予防が可能ですが、値段や副作用もばかになりません。よって通常人々は予防薬を使用するのではなく、蚊に刺されないように気をつけているわけです。現地に住む人々は、日本人をはじめ外国人の様に「虫除けスプレー」を塗布したり、寝る時に「蚊帳」を吊ったりという事が出来るのは少数で、大半はただ単に「気をつける」程度の予防(?)です。マラリアを媒介するハマダラ蚊に刺されても100%マラリアになるわけではなく、あとは「運」なのです。

 

 マラリアは血液に原虫が住み込み、分裂を繰り返して増殖することで発症しますから、放置しておくと赤血球が次々に破壊され、酸素不足で危険な状態に陥ります。話によるとマラリアの症状たるや凄まじいもののようです。

 そこで、それを防ぐために特効薬である「キニーネ」を血管内に投与するという入院治療をします。キニーネには強烈な副作用もありますが、とにかく命は助かります。その入院治療を南アフリカの私立病院で受けると、約1万ランド(約10万円)が必要です。しかも基本的には前金払いもしくは払えるという事前証明やプライベート保険が必要です。では、一般的な庶民はどうでしょうか?当然ながら払える額ではありませんので、無料ないし無料に近い額で診察してくれる公立病院もしくはクリニックと呼ばれる診療所に行くしかありません。

 

 では更に南アよりも所得水準が低い他の一般的なアフリカの国々の人々はどうでしょうか? 

やはり、ここでも無料ないし無料に近い額で診察してくれる公立病院もしくは診療所に行くか、自宅でひたすら我慢するしかないのです。薬の値段が1ヶ月の所得に匹敵するとなれば当然ながら直ぐに買う事はできません。それでもなんとか借金をして薬を買って自分で治療するか、ただひたすら発作に耐え、生き延びることができるかどうか賭けをする「運」しかないのです。それがたとえ子供であったとしても同じ事ですし、これはマラリアだけに限った話ではありません。そして、多くの助かるはずの命が失われていきます。

 

 アフリカにはマラリアやいわゆる風邪など以外にも、HIV(AIDS)、肝炎、黄熱病、エボラ出血熱、マールブルグ病・・・様々な感染症があります。そしてそれらの感染情報や死者の数が一般的に報道される事は稀です。これがアフリカの現実と事実の一つです。

 

 以前、黒柳徹子さんが西アフリカを訪問された際に毎日新聞の記事に出ていた一節に、「日本の人たちには、アフリカの子供にもっと関心をもってほしいと思います。なぜなら遠いアフリカの子供に関心を持てる人は、身近な自分の子供や近所の子供にも関心を持てるはずだからです。『アフリカなんか関係ない』『自分たちだけよければ良い』と思っているうちに、自分の子供への関心すら失い、家庭が壊れ、学校が壊れ、社会が壊れた。それが今の日本ではないでしょうか。アフリカへ関心を持つことは実は日本自身のためでもあると思います」とありました。

現在は様々な事情でジンバブエでの活動が無い「ジンバブエ野球会」ではありますが、会員の方やご支援頂いている皆様の気持ちは、ジンバブエやアフリカの為であり、そして日本の為であることを改めて確信しました。