アフリカの水、アフリカの手

村井洋介

 

 社会人野球選手を引退した年に初めて長期休暇が取得できた。この機会に一生に一度しか行けないところに行こうと思って出掛けたのがアフリカ大陸はケニアであった。

 当時、アフリカ旅行はどれもこれも非常に高額であったので、とにかく安く行けるツアーを探した結果、確かパキスタン航空で、バンコク、マニラ、カラチ、アブダビ経由のナイロビというとてつもなく長いパッケージツアーの旅でした。カンタス航空の払い下げ中古飛行機の機内では毎回離陸の度にスクリーンにモスクが映し出されてコーランが流れ、アラーの神に飛行の無事を祈るという恐ろしいフライトでした。因みに機内食はカレー、カレー、またカレーで、当然アルコール類は無し、シートベルトのサインが消えた途端に多くの人が床に布を敷いて横になるのでトイレに行くのも大変だったと記憶しています。優雅といえば優雅ですが・・・。

 訪問したケニアではフラミンゴで有名なナクル湖、キリマンジェロの麓のアンボセリ国立公園を訪問、まさに映像「野生の王国」(古い!)でしか見たことの無い光景を目の当たりにして感動し、ついでにアフリカの洗礼(下痢)もしっかり受けて、また日本の日常生活に戻った・・・。その時は約1年後には自分がアフリカに住むことになるとはまったく想像もしていない・・・。

 翌1992年、青年海外協力隊隊員として派遣されたのは南部アフリカのジンバブエ共和国。ジンバブエ生活も慣れた頃、現地人から「アフリカの水を飲んだ人間はまたいつかアフリカに戻ってくる」という話を聞いた。話をしてくれた御仁は「お前もいつか戻ってくるんだよ」ってことを言いたかったのであろうが、既にケニアでアフリカの水を飲んでいた(おまけにちゃんと下痢の洗礼まで受けていた)私は、その戻ってきた人間のひとりなんだと思った事を今も鮮明に覚えている。そしてその後も私はアフリカで暮らし、アフリカの水を飲み続けた・・・。およそ18年間。

 そして2009年12月、18年前に単身で訪れたアフリカを家族を連れて離れた。生まれた二人の子供はアフリカの水で育っているのでいつかアフリカに戻るのだろうか? かく言う私も体内の水分は既に100%アフリカ水に入れ替わっている。ちょっと怖い・・・。

 先週ケニアを訪問した。その時にあるマサイ族の男から「アフリカの手」の話を聞いた。曰く「アフリカの大地(自然)に足を踏み入れた時にはアフリカの手に掴まる必要がある。そして一度アフリカの手に触れた人間はまたアフリカの大地に必ず戻ってくる」という「アフリカの水」に似たような話であった。とはいえ「アフリカの水を飲んだ人間は・・・」という話よりはなんとなくイイ感じだ。南部アフリカに居た頃はアフリカを訪れた人に必ずと言って良いほど「アフリカの水を飲んだ人間は・・・」という話をしたが、今度からは「アフリカの手」にしよう。その方がなんとなく夢がある感じがするし・・・。

 思い起こせばこの20年間で27カ国のアフリカ諸国を延べ200回くらい訪問した。北アフリカ諸国を含めたアフリカ大陸の国が54カ国なので、丁度半分の国を訪問した事になる。行ったことのない国は何処だろう?と思いここに記してみる。

 北部アフリカでは「アルジェリア」「リビア」、西アフリカは「セネガル」「カボベルデ」「ガンビア」「ギニア」「ギニアビザウ」「リベリア」「マリ」「ニジェール」「トーゴ」「ベナン」「カメルーン」、中部アフリカは「サントメ・プリンシペ」「ガボン」「赤道ギニア」「チャド」「中央アフリカ」「コンゴ共和国」、東アフリカは「エリトリア」「スーダン」「南スーダン」「ブルンジ」「セイシェル」「ジブチ」、南部アフリカは「レソト」「コモロ」。うーん、やはりアフリカは広い・・・ただ、この行っていない国の中で行ってみたいと思う国は松田聖子も唄った「セイシェル」くらい・・・ですね。

 さて皆さんはどのくらいアフリカの国をご存知ですか? どのくらい身近に感じていますか?

 例えば日本の食卓に上がっている烏賊や蛸の多くが西アフリカのモーリタニアから来ていること、アイスクリームのバニラはマダガスカル、チョコレートはガーナやコートジボアール、ゴマはスーダン、コーヒー、紅茶やタバコもアフリカ産が沢山出回っていますから身近なところに縁の無さそうなアフリカの国々とのつながりが結構ありますよ。

 ジンバブエは? 以前はタバコや紅茶、確かパプリカが日本向けでは有名でしたが…今はどうなってしまったのか判りません。

 残念ながらここ数年はジンバブエの良い話を聞きません。旧宗主国の英国ですら聞かないのですから日本では全くと言ってよいほど良い話は聞こえてこないのでしょうね。多くのアフリカの国々を訪問しましたが、ジンバブエは本当にアフリカの中でもとびきり素晴らしい国であるのに・・・。

 今回は野球の話がまったく無くてすいません。嗚呼、アフリカの太陽が恋しい・・・。