ジンバブエの野球を通して

山本孝興

 

 2003年の春季キャンプ、初めて彼らを見た私は、正直戸惑いました。あまり耳にしたことのない国、ジンバブエ。彼らが何語を喋るのかも分からない自分が、果たしてうまくコミュニケーションをとれるのだろうかという不安でいっぱいだったからです。

 

 しかし、実際に彼らに接してみると、言葉の壁など感じさせないほど明るく、熱心に私の話に耳を傾けてくれました。

 

 彼らと接していく中で一番感じたことは、彼らの野球に対する純粋な気持ちでした。野球ができるという事に喜びを感じ、グランドでその喜びを表現する。彼ら一人一人にとって、野球は本当に愛すべきものだということを実感しました。そして、そんな彼らの野球に対するひたむきな姿勢は、私たちが忘れかけていた、野球を楽しむという気持ちを思い出させてくれました。

 

 そしてもう一つ教えられた事は、私たちが毎日自然に野球をできるという事への感謝の気持ちです。例えば、私たちがいつも使っているグランド。ジンバブエにはそれ自体がないのです。彼らの使っている野球用品一つ一つを見ても、どれだけ道具に愛情を持って使っているかがよくわかります。元々野球がマイナーなスポーツであるアフリカでは、日本でならどこでも手に入るグローブやスパイクが希少品だと言います。そのため一つのものを何年も使用します。豊かで、お金さえ出せば欲するものが何でも手に入る現在の日本では、この感謝の気持ちが薄れてきています。使っているグローブが、ボール一球が、どれほど尊いものかを、改めて教えられました。

 

 ジンバブエでは、国の約7割がクリスチャンです。我々関西学院もキリスト教の色が濃い学校ではありますが、彼らに出会って意識の差に驚かされました。

 

 まず生活のリズムが毎日同じなのです。どこに宿泊しても、夜眠る時間と、朝起きる時間は決まっていました。不規則な生活を続け、時間を浪費しがちな

 

我々日本人とは違い、時間を大切にし、常に一生懸命物事に取り組んでいました。

 

そして、いつも愛する心を欠かさず持っていました。観光案内した先で、彼らの趣味を聞いて少し驚きました。彼らの趣味は人間観察です。当然、人には様々な人がいます。派手な人、地味な人。明るい人、物静かな人。そんな色々な人間を見ることが一番の楽しみだと話してくれました。度重なる取材で、我々ですら気の滅入る時でも、不満一つ言わず、一つ一つの質問に丁寧に答えていました。ある時、いつまでも取材ばかり続いて申し訳ないと彼らに謝ったことがありました。しかし彼らは笑いながら、日本人の礼儀正しさに感激していると、逆に感謝されてしまいました。純粋で、全ての人を同じ目線で見ることの出来る彼らを、私は心から尊敬しました。

 

 前述したように、アフリカで野球はまだまだマイナーなスポーツです。しかし、ジンバブエ野球界は確かに自分たちの意志で歩き始めています。野球をするものに国境はありません。私たち日本人も、より多くの人が野球の素晴らしさを味わえるような環境作りをしていかなければなりません。

 

 彼らと接する機会を与えてくださった全ての方に、心から感謝しています。ジンバブエ野球界のこれからの発展を祈ります。