ジンバブエの風を感じて

―ジンバブエ野球協会訪問報告―

全日本少年硬式野球連盟(ヤングリーグ)

 姫路アイアンズヘッドコーチ 大前健治

 

 2015年12月18日12時25分 遂にジンバブエの大地に立ちました。澄み渡る紺碧の空、鮮やかな緑、爽やかな風が私たちを迎えてくれました。

 今回の訪問メンバーはジンバブエ野球会事務局長伊藤益朗さん、2年前に訪問された正岡茂明さん、正岡康子さんご夫妻と私の4人です。

 今回の全体の主な訪問目的は、①ドリームカップ試合観戦 ②ナショナルチーム合宿に参加し野球指導 ④ジンバブエ野球協会の現状確認 ⑤青年海外協力隊ジンバブエ隊員田澤氏との交流 ⑥JICAジンバブエ事務所訪問 ⑦ジンバブエでの友人、伊藤さんが指導した人たちとの再会です。

 私が参加させていただいたのは、高校時代の野球部監督で私の恩師の正岡茂明先生にお誘いをいただいたからです。私は少年硬式野球チームの姫路アイアンズで中学生を指導しています。例にもれず息子達がお世話になることをきっかけに始めましたが、早いもので18年になります。チーム練習は平日にはありませんので毎週土日と祝祭日に中学1年生から3年生約70人の指導を行っており、自分では充実した活動を行っていると思っています。今回の訪問では、グランドや道具等の環境が整った状況での指導ではなく、環境が整っていない状況で自分にどのようなことができるのかを確かめ、また野球指導に関しての視野を広げようと思って参加させていただきました。

 この報告では主にグランド内での出来事、試合観戦で気づいたことやナショナルチーム合宿中の指導について報告させていただきます。

 

◆「ドリームカップ」試合観戦で気づいたこと

 会場:ハミルトン高校グランド(ブラワヨ)※ハラレ以外の土地では初開催

 参加地区:ハラレ、マニカランド(ムタレ)、ブラワヨ、マシュウェスト、ミッドランド(グエル)、マシンゴの6地区から6チーム

 参加選手年齢:18歳~29歳

 

<試合観戦(グランド状態)>

 ・土は赤色でとても粒子が細かい

 ・雑草の枯れた茎、根が無数にある

 ・2~3cm大の小石が無数にある

 ・凹凸が著しい

 ・外野は一面雑草の枯れた茎と根

 ・ファウルラインは引かれているが曲がっており、殆ど消えている

 ・コーチャーズボックス、ネクストバッターサークル、スリーフィート、インフィールド等のラインは引かれていない(石灰やライン引きはなく、石灰岩の粉を水で溶いてペットボトルで引いた)

 ・OB、ホームランラインはなく、目印に白く塗った石を置いている

 ・バックネットは簡易なものを設置(バックネットがあること自体が凄いことだと後から聞いた)

 ・両チームのベンチは明確にはない

 ・ベースは手作りでベルトコンベヤのゴム製(固定式ではない)

 ・グランドの周囲にペットボトル等のゴミが散乱している

 

<試合観戦(選手の動き)>

 ・選手のプレーレベルは少年硬式野球での中学1年生くらい

 ・送球のカバーリングはほとんどなし

 ・試合のルールは理解している

 ・内野の緩いゴロを両手で丁寧に取りに行くがファンブルが多い

 ・肩が強く送球は強く、早い

 ・足が速い

 ・投手の牽制が無く、盗塁はほぼ成功

 ・ファウルボール(OBのファウルボール)を取りに行かない

 ・審判員を育成している

 

◆ナショナルチーム合宿で指導

 今回の合宿では選手への指導とともにコーチ陣へのアドバイザー的な役割で参加しました。

 会場:ハミルトン高校グランド(ブラワヨ)

 参加選手:6地区から選抜された約20名

 コーチ:田澤佑太郎氏、アメリコ・ジュマ氏、ワシントン・ニカ氏

 期間:12/21-12/26  6日間

 合宿の内容:コーチ陣が計画したスケジュール、メニューを実施

 主なメニュー:8:00~ウォームアップ、9:00~朝食、9:40~キャッチボール 

        その後、捕球・送球練習、シートノック、連携練習、昼食、バッティング、

        フィジカルトレーニング、15:30クールダウンの組み合わせ、合宿中に紅白戦を3試合実施

 

<指導の内容>

まずはグランド作りから、伊藤さんと正岡先生のお二人は古タイヤを引いてグランドの整地を行い、私は雑草の根を取り、3人で小石を拾いました。初日は私たち3人で行っていましたが、二日目からは審判員のケルビンとビクターが手伝うようになり、また故障した選手も加わりました。日本ではグランド整備といえば“トンボ”を使うのが当たりまえですが、そのトンボはありませんでした。しかし、二日目にはジンバブエ野球協会会長モーリス氏のガレージにあった木材でトンボを作りグランド整備に使いましたが、雑草の根に引っかかり思うように使えませんでした。かろうじてマウンドとバッターボックス周辺の整備に使うことができました。

 初日のバッティング練習でピッチャーを依頼されました。打球が速いので万一を考えるとバッティングピッチャー用のL字ネットが必要だと思いましたが、当然L字ネットなどありません。そこで校舎の中庭にあったバーベキュー(BBQ)用の網を流用しました。このBBQ用網には「つっかい棒」的な足がついており自立したので、十分にその役割を果たし、私は安心して全員のバッティング投手をすることができました。

その日の夕方、モーリス氏が自動車(マツダのデミオ)の屋根に何やら乗せてグランドに帰って来ました。よく見るとそれはL字ネットの枠でした。鋼製で高さ2m幅2mのしかも足付きの枠を僅か半日で作って運んできたのでした。もちろん枠に張る網も購入しており練習後に完成させ、二日目からは立派なL字ネットを使用してバッティング練習ができました。

このように“トンボ”や“L字ネット”など日本では当たり前に存在するものがないのが現状です。しかしそれらが必要ならば即作るという意思決定の速さと行動力に感動しました。

 選手のプレーに関しての指導ですが、私が特に気が付いたのは内野の緩いゴロに対して野手が両手で取りいこうとしている点です。緩いゴロは素早く処理しないとアウトにできません。両手で取りに行こうとすることで足が止まってしまい、両手を合わせることに意識が行き過ぎてボールのバウンドにグラブが反応できていませんでした。日本での指導の多くは“捕球の基本は両手で捕る”としていますが、私は“捕球の基本はグラブで捕る”と指導しています。両手で捕るかシングルキャッチをするかは打球や送球の状況によって選手が判断するものだと思いますし、その判断ができるように指導すべきと考えています。ましてイレギュラーの多いグランドではボールに対して早くから捕球姿勢に入るのではなく、ショートバウンド、ロングバウンドに合わせてタイミング良くグラブを出すシングルキャッチをコーチの田澤氏、アメリコに提案し了解を得ました。その後のシートノックでは緩く捕り易いゴロを打ちシングルキャッチの練習を取り入れてくれました。そして伊藤さんによる捕球~送球までの体重の移動の仕方、ボールに対する距離の取り方、送球時の軸足の決め方についての実演を交えての丁寧な指導は選手のみならず私も非常に勉強になりました。実演ではスライディングキャッチもされる姿に感動しました。

 選手のプレー以外で特に気が付いたのは、ファウルボール(OBのファウルボール)を取りに行かないことです。「ドリームカップ」の試合観戦中ですが、ファウルボールを取りに行く控えの選手や試合観戦をしている他チームの選手はほとんどいませんでした。試合に使えるボールは限られているので数回のファウルで試合が中断します。私は準決勝戦、決勝戦の主審をさせていただきましたが、ファウルの度に大きな声でしかも通じているかどうかわからない英語でファウルボールを早く捕りにいくように促しました。合宿の初日の終了ミーティング時にもファウルボールを取りに行くことはとても大切なことだと説明し、二日目からは率先して取りに行く選手が現れましたし、その後の紅白戦ではあらかじめボールボーイ的な役割を選手同士で決めてファウルボールを取りに行くようになりました。

 紅白戦では高校のイスをお借りして対戦する両チームのベンチを設置するとともに、ネクストバッターサークルを設けました。攻守交替時のベンチワークも指導しスピーディーな試合進行ができるように努めました。

 私の訪問目的である「環境が整っていない状況で自分にどのようなことができるのか」ですが、前述のように環境はほんの僅か、微々たるものですが進歩したと思います。合宿に参加した選手がそれぞれの所属地域や再度招集される合宿時に実践してくれることを期待しています。

一方、選手とのコミュニケーションは私の知っている数少ない英単語ではスムーズなコミュニケーションが図れたとは言い難いのが事実です。しかし、それが功を奏した面もあります。なぜなら私は選手を叱るような英単語を知らず、私が発する言葉は全て選手を褒める言葉だったからです。「ナイスプレー!」、「ナイスボール!」、「ナイスバッテイング!」、「グッドプレイ!」等々、選手にかける言葉すべてにナイスとかグッドとかがついていました。

私が声をかけると選手達は輝くような笑顔で「サンキュー、コーチ」と応えてくれました。

野球への取り組む姿勢や、技術的な面は冷静な口調で丁寧に説明し、選手のプレーに対しては褒めてやることが上手くなる一番の指導ではないかと改めて実感しました。

野球への取り組む姿勢についてですが、野球の技術向上のために努力するのは勿論ですが、グランド整備をする、道具を大切に扱う、グランドのゴミを拾うというような躾や習慣面での姿勢を身につけることも大切ではないかと感じました。「ドリームカップ」終了後や合宿の練習中に正岡先生ご夫妻が率先してグランド周辺に散乱していたゴミを丁寧に拾われている姿に私は感動しました。そして最終日には数人の選手がゴミを拾う姿を見ました。

今回のジンバブエ訪問では感動することが多くありました。私自身忘れかけていたこと、わかっているけど実践できてなかったことが再確認できました。今後の中学生の指導に役立てていきたいと思います。

今回のジンバブエ訪問に際しまして大変お世話になりましたジンバブエ野球会伊藤益朗様、正岡茂明先生、正岡康子様、ジンバブエ野球隊員田澤佑太郎様、ジンバブエ野球協会会長モーリス・バンダ様、JICAジンバブエ支所所長吉新様、企画調査員柳沢様、また、野球道具の提供をいただきました皆様に心からお礼申し上げます。

 

<主な旅程>

12/17 18:05 関西国際空港を出発

12/18 12:25 ブラワヨ着(香港、ヨハネスブルグ経由)

 ・ハミルトン高校で開催中の「ドリームカップ」観戦

 ・ジンバブエ野球協会会長モーリス・バンダ氏邸に宿泊

12/19 「ドリームカップ」観戦

 ・準決勝戦、決勝戦で主審を務める

12/20 マトポ国立公園観光

12/21~26 ナショナルチーム合宿に参加

12/27 早朝3:30 モーリス邸出発(モーリス氏の車でハラレまで送っていただく)

 ・ハラレメトロポリタン野球協会会長のウィンモア氏と会う

 ・「ドリームパーク」(1998年に完成、2006年に封鎖)視察

 ・ワシントンコーチのご両親に会いにマロンデラ奥地へ

12/28  8:50 JICAジンバブエ支所訪問

12:50 ハラレ空港出発帰路につく

12/29 19:50 関西国際空港着

    タイヤでグランド整備      初トンボでグランド整備    L字ネット製作       雑草の根の除去      

練習前ミーティング                  ジンバブエの雲                          紅白戦   

    昼食サービス       ジャカランダの並木      紅白戦       キャンプ打ち上げ  

 

奥地への道                    JICA事務所                     ナショナルチーム