ジンバブエを訪れて

小坂亮太

 

 

 2012年8月、初めてジンバブエを訪れました。

大学での私の指導教員である岡田千あき先生を通じ、

伊藤さんを紹介していただいたことからジンバブエ

野球に関心を持ち、今回の渡航に至りました。ジン

バブエへの大規模な支援に向けての調査で訪れた江

頭さん、九鬼さんに同行させていただく形で、2週

間に渡り滞在しました。私は小学校4年時にソフト

ボールを始めて以来、中、高と野球を続け、大学で

も硬式野球部に所属していたので、主に野球につい

て感じたことを書きたいと思います。

 ジンバブエに到着し、最初の4日間はマンディさん宅に宿泊し、ハラレ周辺において活動しました。最初に野球指導で訪れたのは小学校で、30~40名程の子供たちが出迎えてくれました。日常的に野球を行っているのか、グラウンドにはラインが引いてあり、ダイヤモンドができあがっていました。ルールは概ね理解しており、投げる、打つといった部分に関してもこの年代にしては十分だと思います。人数の関係で9名を超えて守備に就かざるを得なかったのですが、これに関して「9人じゃないのか」と尋ねてくる子供が何人かいたのが印象的でした。日本では全員が参加できるようにするのが一般的だと思いますが、彼らはきちんとルールに則ってやりたかったのでしょう。野球を楽しんでいる子は多かったので、今後も多くの子が続けてくれたらと思います。

 2日目に訪れた高校では、硬球を使い、比較的野球らしいことを行っていました。しかし、細かい部分での理解に欠ける部分があります。5人が1列になって行う中継練習では、練習の意図を把握していないのか、正面を向いたまま捕球し、大きな動作で投げる選手が多く見られました。ゲーム形式の練習では、カバーリングの不徹底が目につきました。きちんとした指導者がいないことが大きく影響していると思われます。また、環境面に関して、グラウンドは凹凸が多く、ほとんどのゴロがイレギュラーするため非常に危険です。用具も不足しており、一人一人にグラブが行き渡らない状況でした。ただ、そんな中でも声のよく出るチームで、練習にも真剣に取り組む選手が多いと感じました。人懐こい子が多く、男女を問わず野球を楽しんでいる姿が印象的でした。

 5日目以降はブラワヨに移動して活動する予定でしたが、宿泊先で盗難に遭い、予定の変更を余儀なくされました。野球道具を失ったこともあり、気持ちを切り替えるのが大変でした。この一件を除けば特に大きな危険もなく、有意義な旅であったため、ジンバブエに対するイメージという点においても非常に残念な出来事でした。

 その後、ブラワヨでは3日間、野球の練習に参加しました。高校生からそれ以上の選手が多かったのですが、こちらは前述の高校の選手と比べて基礎が疎かになっている選手が多いという印象を受けました。マンディさんから私がメニューを考え、指導する機会をいただいたので、キャッチボール、ボール回し、ゴロ捕りなど基礎的な練習を中心に組み立てました。日本でも指導した経験が無く、至らない点も多かったですが、多くの選手は真剣に取り組んでくれました。しかし、数人であっても不真面目な選手がいると雰囲気が乱れてしまいます。私は「楽しむ」ことと「ふざける」ことをはき違えたことによって生じる雰囲気が大嫌いです。ただ、それはあくまで私の考えであり、どこまで彼らに求めるべきなのか。彼らのしたいようにさせた方が良いのではないか。練習にしても、面白くない基礎練習ではなく、彼らの望むように試合をさせてあげた方が良いのではないか。非常に悩んだ部分です。迷いましたが、今回は練習の雰囲気には介入せず、午後からは試合も行いました。しかし、真面目にやりたい、上手くなりたいと思う選手がいる以上、そういった選手の思いを優先すべきなのではないかと私は思います。いろいろと考えさせられることの多い、貴重な指導経験となりました。

 彼らが野球をする「意味」とは何なのでしょうか。「野球が好きであること」が最も大事なのは間違いないありません。ただ、国内の状況は一時期よりは回復していますが、失業率は9割とも言われ、水や電気も頻繁に止まるような状況です。野球は非常に面白いスポーツです。しかし、彼らの野球は現状、支援によって成り立っている部分もあります。その中でやる野球が単なる「暇つぶし」であってほしくはありません。

ジンバブエでの最後の夜、メジャーリーグ中継を観ながらマンディさんと明け方まで野球について語り合いました。「私は礼儀を重んじる日本の野球が好きだ。野球の持つ教育的な良さが認知されれば、子供に喜んで野球をやらせる家庭が増え、ジンバブエでも野球が普及するのではないか」という彼の言葉は、非常に印象的なものでした。マンディさんの地道な普及活動により、野球人口は着実に増加しています。マンディさんなら、野球の楽しさと教育的な良さを良い形で普及してくださることと思います。今回、マンディさんをはじめ、コーチの3人や、ジンバブエの人々と関わり、共に野球を楽しむことができたことは、私にとって非常に大きな経験になりました。今後のジンバブエ野球の発展とともに、野球の力が彼らの生活をより良くしていくことを願っています。またいつの日か、彼らと野球ができる日が来ればいいな、と思います。