ジンバブエ状況報告

村井洋介

その1

 2000年5月5日

 西暦2000年、ここジンバブエは激動の年を迎えております。1980年独立から20年に渡って、Robert Mugabe大統領と共に揺るぎない地位を確保していたはずの与党ZANU(PF) Zimbabwe Africa Nation Union (Patriotic Front)が、ここ数年の経済破綻、通貨の暴落、汚職-コンゴ出兵問題などから、今年4月に行なわれるはずであった選挙(現在は延期中で、8月11日の最終リミットぎりぎりまで引き延ばされるとの予想)での政党の絶対的な勝利が危ぶまれてきた。更に、Morgan Tsvangirai 率いる新野党MDC Movement for Democratic Change が反与党として白人支持と共に勢力を伸ばしてきており、大統領にとって好ましくない状況となっている。

 昨年から続いている外貨不足から、コンゴ出兵が非難される中(かなりの政治的、個人的利権が鉱山関係などから絡んでいると言われている。兵士への支払いを含め出兵の国の出費は外貨建てである。さらにはこれに絡み、IMFの融資はジンバブエ軍のコンゴ撤兵を条件に凍結状態となっている。)、今年の2月下旬には代金の未払いからガソリン、軽油、パラフィンの供給が一時ストップされ、パニック状態にまで発展した。それに拍車を掛けるように、3月初めにはパイプラインを持つモザンビーク、鉄道輸送の要である南アフリカ、ジンバブエ国境地帯が何十年かぶりのハリケーンによる壊滅的な被害を受け、まさに泣きっ面に蜂のごとく輸送網が遮断された。ガソリン、軽油の入ったガソリンスタンドには長蛇の列ができ(5-10時間待ち)、ガソリンが入る予定のガソリンスタンドにも徹夜組を含め列ができた。街中到る所のガソリンスタンドの前に列ができたために交通渋滞を招いたり、順番の喧嘩、横入りから殺人事件まで起こった。現在では少し落ち着いてはいるが、いつまた起こるとも分からない不安な状態である。ちなみにガソリン1リットルの値段は、1年前の約4倍となっている。勿論これに伴い交通運賃、輸送料、物価が上昇しているが、給料の値上げ幅が物価上昇に伴わず、国民の生活は苦しくなっている。そのため、ストライキが起きたり、泥棒も増えている。外貨不足もさることながら、政治問題から先進諸国や近隣国からの経済制裁も今後の不安要因である。

 ジンバブエ通貨のジンバブエドルにも疑問がある。これだけのインフレの続く中、ジンバブエドルの対米ドルの為替レートは既に1年以上もほとんど変わっていないことである。この背景には、今回の選挙が絡んでいると言われている。しかし4月に入り、リザーブバンクの指示レートである対米ドル1:38は各銀行とも表面的にはその為替レートを示しているものの、実際の銀行取り引きでは5月4日現在1:50(闇レートは1:55)である。つまり、ジンバブエドルの事実上の暴落がいつ起きても不思議ではない。政府の選挙の引き延ばしが現在の為替レートを無理矢理にとどめていると言われているが、これもいつまでも可能とは考えられない。更には、この公認レート (1:38)はジンバブエを支える農業であり、外貨獲得の最大の産業の一つ煙草産業が煙草の売りの時期となった今、大きな問題になっている。今年の初売りは例年を下回る売値でのスタートとなったが、売手側はそれを拒否した。ジンバブエの煙草農家にしてみれば、あくまでも公認レートが1:38で、ジンバブエドルの暴落が見えている状況では、外貨建て取り引きに於いて少しでも高く売りたいことになる。例えば煙草1トンの収入が1万米ドルと仮定すると農家は1トン38万ジンバフエドルの収入となるが、38万ジンバブエドルは事実上は7000米ドル以下の価値の収入でしかない。勿論これは煙草産業だけでなく全輸出産業に共通の問題である。

 ここ数ケ月かなりの汚職問題が、新聞紙面をにぎわした.現役大臣までもが法廷に立たされている。これも与党にとって今回の選挙のマイナス要因の一つである。世論が野党側に有利となったとき、今回の独立戦争退役軍人による白人農場の不法占拠が始まった。この問題はハラレの西約100kmの町Maronderaの白人農場主殺人を機に世界的に知られることとなる。退役軍人と与党の関係を簡単に説明すると、この退役軍人達は与党の支持者達である。現政党はこの退役軍人達に農地の支給を約束しており、恩給を支払っている。もしも政党が変われば、退役軍人達の保障も変わる可能性が高い。それらのことから選挙問題に介入している。白人農場主2名とその農場で働く黒人、野党支持の黒人(野党党首の運転手もいる)6名が既に命を落としている。2名の白人女性が6名の黒人男性に強姦された。農地問題もさることながら、白人が野党MDCの支持者であると云うことも絡んでいる。この農地問題に関しては、合法的な解決方法は独立後の20年の間に幾らでもあったのではないか。例えば、相続税や先進国援助の中でできることがあったのではないだろうか。現在イギリスとの交渉はいきづまってしまっている。それに加えコモンウエールズ諸国の反感をかっているが、実は経済の悪化や、政策の失敗、インフレ問題などの国内問題を当面に迫った選挙を睨んで与党側が植民地政策賠償問題、白人黒人間題に発展させてスリ代えを図っているように思われる。旧宗主国イギリスにしても植民地がジンバブエだけではなかったことから、簡単には解決できる問題ではない。下手なことをすればそれこそ、いつ何時第2のジンバブエが現れる可能性もなくはない。既に、ヨーロッパの援助ドナー国が援助の凍結をしている。正当な選挙が行なわれることもさることながら国際社会からの孤立、経済制裁を受けることのほうが心配である。_ 8年間、野球を通じてジンバブエと関わってきた。多くの方々のご協力で野球と云うものが知られてきた。野球人口も確実に増えた。アフリカで最高の野球場を持つジンバブエが、今大きな危機に直面している。