ゼロからのスタートをきって

小林拓也

 

<自分にできるのか?>

カンボジアを直前に控えて、これしかなかった。

カンボジアという慣れない場所で、しかも言葉の通じない地でのスタート。野球というルールは知っている。だから、小学生などに教えることはできるが、野球を知らない人への教え方というのは全くわからない。全て自分で考えて行うので、新鮮である反面、とまどいもあった。カンボジアではサッカーが普及しているので、ボールが飛んできたら足で止める生徒の方が多かった。それに、カンボジアでは、タイなどのキックボクシングのテレビをみて賭けをするシーンをよく目にするのだが、グローブを両手にはめて遊ぶ生徒もいた。それに暑さも加わって、座り込む生徒に、日陰に避難する生徒もちらほら。野球は、攻撃をするチームと守備をするチームとに分かれて成り立っているはずだが、攻撃をするチームと、攻撃を待つチームに分かれているようだった。

しかし、野球のルールを教えるにつれて、なんとか攻撃側、守備側に分かれたように思う。そして、ちゃんとした野球のルールではないが、勝敗をつけることができるようになると、今まで打っても本気で走らなかった生徒が、みんなの声援を受けて全力で走ったり、野球というスポーツを木陰で静観していた生徒も、積極的に加わるようになった。自分の蒔いた種が少しでも芽が出たように感じ、すごく嬉しかった。苦労が多い分、喜びもひとしおだった。

だが、私の任期が終わる7月以降の後任が期待できなくなり、その喜びも、カンボジアの乾季のように枯れあがった。そして、焦った。自分の蒔いた芽が見たくて見たくて、今、思うと、決断を早まったと感じる。授業で行っていた野球を、希望者だけで行うようにした。希望者が固定されてきて、その中から、リーダーシップをとる生徒が出てきて、7月以降も自分達で野球ができるようにしたかった。いざ、ふたを開けてみると、固定されるどころか、生徒が集まらない日もあり、野球を出来ない日もある。4ヶ月あまりで、少しは根付いただろうという考えが甘かった。地面に生えている芽を、目の前で見ることができた。でも、その芽は、地面からは掘り返されていた。残りの任期は約1ヶ月ちょっとで、種を植えている時間は到底ないが、今まで以上の工夫をして、とりあえず、水はきらさないようにしていきたい。

カンボジアで野球を広める。その結果は置いといて、すごい良い経験が出来たと思う。無理だ、という意見が多い中で、実際に現地に行って、生徒の顔を見て、少しでもその可能性はあると感じた。

<実際に行って、トライできたこと>

これは、自分にとって、本当に良かった。悔しさも沢山経験したし、その分、喜びも大きかった。このような経験が出来たのも、道具を協力して下さる方がいてこそだと思う。アドバイスをして下さる方がいてこそだと思う。本当にありがとうございました。残りの期間、時間を惜しみつつ、楽しんで行きたいと思います。