中国(大陸の方)プロ野球観戦記

 

中国にプロ野球があったのか?!

 これが表題をご覧になった皆様の正直な感想ではないでしょうか。

 

ところで、中国人は野球をするのかというと、それこそ弁髪とチャイナドレスの時代からしていました。しかし、「プロレタリア文化大革命(文革)」(1966〜1976)で野球はブルジョアスポーツというレッテルを貼られ、選手や関係者は迫害され、辺疆に労働奉仕に出されてしまいましたので、ここ十数年というもの、一般人民の耳目には全く触れないという状況が続き、「忘れ去られた球技」となっておりました。

 

文革の後、球技スポーツのパンドラの箱を飛び出て人気を博したのは、バスケット、サッカーなどですが、箱の隅に残ったこの野球というみそっかすに再び光を当てたのは、文革のあいだ、辺境瘴癘地帯で、選手としての適性年令の間、ひたすら肉体労働に明け暮れて来た往年の野球青年達の執念でした。まず内陸の四川省でチーム再建し、とうとう中国野球協会を設立するまでに至りました。爾来日本から野球指導のため青年海外協力隊員を受入れるなどして地道なレベルアップを続けて来ました。そして、北京オリンピックの決定がこの努力を国家的計画に押し上げたのです。中国は野球で6位以内を狙うという目標を掲げましたが、それには競技人口を増やし裾野を広げて若い優秀な選手を育成しなければなりません。そう、それにはプロ野球を開催することだ!ということになったのです。

 

さて、4月12日(土)午前9時中国プロ野球リーグ第18戦「北京タイガース対広東レオパーズ」の試合の行われる北京豊台野球場に、私と母、そして現地ガイドのK氏(東京外大留学時代野球部所属)の姿がありました。中国帰国後野球とは全く縁がなかったK氏は、「野球なんかマイナーですよ、ボクも観たことないネ」とクールな反応。

 

「中国棒球連賽北京賽区」という横断幕のあるゲートに到着はしたけれど、試合がすぐ始まるというのに、辺りに人がいない、車もほとんど停まっていない。本当にここでいいのであろうかという不安を抱きつつ、球場の入り口に進むと、おばちゃんがグローブを積んでいるカウンターが出現。「ファールボールをキャッチせんかね〜、グローブ貸しまっせ〜」という呼び込みに、ボールもらえるんだ〜と感心。次に入場料無料というのに唖然。

 

中に入ると、北京唯一の観客席付き野球場であり、改修してオリンピックにも使う予定という豊台野球場の全貌が見えました。明石第一球場にそっくりと思う兵庫県民2人。周りを見渡すと、三塁側にホームチームの北京タイガース、一塁側にビジターの広東レオパーズ、三塁側の客席には中国風の太鼓を携えた応援団百名程が声援を送り、一塁側は対照的に閑散としておりました。

 

そこで我が社の現地駐在員Sと無事合流。Sは元A新聞アマチュア野球担当記者で「歌って踊れるスイッチヒッター」を自称する野球狂、この日は河南省で野球指導を行う青年海外協力隊員に率いられてプロ野球観戦の為に上京してくる少年野球チームのアテンドに朝5時からフル回転。どこから取って来たのかナゾの記者証を只の旅行者である私にも掛けさせると、中国側幹部に次々に紹介してまわってくれました。

 

そうこうするうちに試合開始。

 

まず、妖艶なチアガールの踊りが内野で炸裂、男性陣大歓喜。その後はスタメンの紹介、打順で名前を呼ばれた選手が両ラインに沿って並ぶという方式でした。脱帽起立のうえ国歌斉唱のあと「プレイボール!」言葉もゼスチャーも日本と同じです。ただ、場内アナウンスが全然違う。ラジオの野球解説がそのまま球場アナウンスになったとご想像下さい。審判が「ストライク!」とコールすると、アナウンスは「良い球!」、「ボール!」というと「悪い球!」、ルールに不案内の観客にも分かるように丁寧に解説がついている訳です。試合は、北京の昨年最優秀投手李晨浩が安定したピッチングを見せる一方、広東が投入した韓国人投手が1回裏に打者1巡8点を献上する展開となってしまい、我々はコールドゲームの心配をする始末。結局、初回の大量得点差は縮まらず、北京の圧勝で幕を閉じました。

 

エピソードを3つ。豊台球場には立派な電光掲示板がありますが、使用せず、外野フェンスの上の小さな得点板に点数を磁石で貼付けていました。当日は強風。その強風に煽られて「8」の字がひらひらと外野へ飛んで来ました。必死で「8」の字を追い掛けて外野に飛込む得点板係、それを気にもとめず試合を続行するおおらかな選手達でした。また、フィールド内にやたらとビニール袋が飛んで来るのですが、それも皆さん無視。聞いてみると隣が市場でそこからしょっちゅうゴミが舞い込んで来るのでもう慣れっこなのだそうです。それからクールだった現地ガイドK氏は試合開始と同時に熱中のあまりガイド任務を放棄、少なくともこれで1人はプロ野球ファンが増えたかなと己を慰めた次第です。

 

大らかで逞しく、打撃は国際レベルの中国プロ野球、皆さんも応援してくださいね。