向上への6連敗

村井洋介

 

ジンバブエ野球ナショナルチームは、2002年4月26日から5月1日まで開催の南アフリカ州選抜野球トーナメントに特別参加いたしました。ジンバブエチームとして他国の大会に参加するのはオールアフリカゲームズを除いては実に14年ぶりの事でした(ジンバブエのクラブチームとしては1993年に南アフリカケープタウンで開催された国際野球連盟プレジデントカップに参加、当時の選手は全員が白人)。

 

今回の参加はジンバブエ野球会から選手の交通費、宿泊費、食費を援助していただきました。4月25日朝、ブラワヨの選手が夜行電車に揺られる事12時間でハラレに到着、その夜10時発のバスで南アフリカに向けて出発、翌26日午後2時、大会開催地のプレトリアに到着いたしました。宿泊先はキリスト教関係のドミトリー大部屋、食事は全て自炊というコンディションです。

 

大会は南アフリカの6州から7チームがエントリー、ジンバブエチームを加えて8チームの大会です。予選リーグは4チームずつの2ブロックに分かれて総当戦、決勝リーグは両ブロック上位2チーム、下位2チームずつの2ブロック4チームずつに分かれて再度、総当戦で争われました。

 

今回参加のジンバブエチームはまさしく新生ジンバブエチームで、大会参加選手14人中18歳以下が5人、20歳以下が7人という若いチームでした。ジンバブエチームと南アフリカの各州選抜7チームを比較すると体格はまるで大学生と中学生ほどの差がありました(南アのチームは日本の大学野球チームより更に2周りほど身体が大きい)。

 

案の定、初日の2試合は身体とパワーに圧倒され、経験不足も加わって、地に足の着かないうちに敗退しました。

 

ところが、負け方が悪くなかったのです。前回のオールアフリカゲームズでは20点以上取られていましたが、この2試合は10-0と12-1。パワーだけに頼る南アフリカ野球の欠点をたくさん覗かせた実に粗っぽい野球を露呈していました。

 

 

4月28日、日本からジンバブエ野球会代表の伊藤益朗氏が大会の見学に訪れてくださいました。飛行機の到着が午前7時30分、その日の試合は午前8時からの第一試合、プレトリアからヨハネスブルグの空港までは約70Km、私が空港まで伊藤氏をお迎えに上がったため第三試合は監督無しでのスタート。私と伊藤氏が球場に到着した時には既に大差のコールドゲームで敗退。決勝リーグは下位4チームのブロックへ。

 

下位チームのブロックと言っても対戦相手は上位チームブロックと圧倒的な差があるとは言えない3チームとの対戦です。試合前夜には予選リーグの反省会、決勝リーグへの対応に入念なミーティングを開きました。オリンピックに出たチームとはいえ、粗っぽく、つけいる隙はかなりあると思われる南アフリカの野球に対し、ジンバブエチームは今後のジンバブエチームの信条である緻密な野球で対応する事、選手各自が1イニングずつ向上する事、相手が嫌がる野球をする事を合言葉にミーティングを終了。

 

4月29日、先発予定投手がマラリア性発熱の為、試合15分前にダウン。27日の第一試合で一塁に駆込んだ際、足首を骨折したキャプテンに次ぎ2人目のリタイア。チームの動揺は隠せない状況の中、急遽52歳の伊藤氏をスターティングメンバ-として起用(万が一に備えて大会前の会議の際、伊藤氏と私も選手登録をしておいた)、試合はスタートしました。相手投手は元ナショナルチームメンバー、ところが伊藤氏は3回の第一打席いきなり目の醒めるようなセンター前ヒット、これがチームに勇気と勢いをつけ3回以降は毎回の安打、集中打を浴びせる回もあり取りも取ったり7得点。試合は負けたが、この試合をきっかけに選手が別人となる。

 

ちなみにこの試合7番ショートの伊藤氏は3打数3安打の大活躍。ジンバブエチームだけでなく、南アフリカのチームや野球関係者に日本の52歳は侮れないという強烈かつセンセーショナルな印象を与えた。

 

 

2試合目も敗れはしたものの6得点。ヒット数では相手チームを上回り、エラーも相手チームより少なく、選手の顔も気持ちも変化を示す。これまであった恐怖も自信に変わった。

 

この日の夜のミーティングはこれまでにない大きな収穫を選手に与えた。

 

4月30日、0勝5敗。6試合目はジンバブエチームの将来の為にも再度伊藤氏がスターティングメンバーで出場。ここでもいきなり第一打席にセンター前ヒット、これで通算4打数4安打、南アフリカ人もイチローを生んだ国に納得。

 

これに刺激を受けたジンバブエチームの若手が活躍、ジンバブエでも滅多にヒットを打たなかった16歳のキャッチャーが4打数4安打、好打好守も続出。その後、伊藤氏のバットからヒットは生まれなかったものの、7打席、6打数4安打、1四球、打率6割6分6厘、出塁率7割1分4厘。

 

残念ながら試合には敗れて6敗目。5月1日にはゲーム無し、優勝決定戦の観戦と閉会式。

 

今回の大会参加は新生ジンバブエチームの選手に勇気と自信と経験を与えた非常に有意義なものでありました。南アフリカの野球関係者も驚きを隠せない様子で、ジンバブエチームを賞賛してくれました。2003年オールアフリカゲームズに向けて価値ある第一歩を踏み出す事ができたと思います。

 

この度の大会参加におきましては、皆様からのご支援に選手一同感謝いたしております。今後ともジンバブエチームの応援を宜しくお願いいたします。