岩崎先生へ

村井洋介

 

 今もお付き合い頂いている、元青年海外協力隊ジンバブエ隊員で、現在は京都にて中学校教諭の今岡氏とのやりとりで、氏が体育の授業でソフトボールを教えているが、野球やソフトボールを経験したことがある子が生徒全体の3分の1弱程度で、グローブのはめ方、ボールの捕り方、投げ方から教えなければならず、ジンバブエを思い出す…という話がありました。そしてそれは私が20年前に、グラブ、ボール、バットにゴム製のベースをバッグに詰めてハラレのハイデンシティ地区を巡回訪問することにはじまったジンバブエでの野球指導や他のアフリカでの野球指導を思い出すきっかけになりました。そこで今回は、20年という歳月が様々な環境や状況を変えているとは思いますが、新たにアフリカへ野球指導に赴任される岩崎先生に、応援のメッセージとして私が見た、経験したアフリカについて書かせて頂きたいと思います。

 

 アフリカには我々日本人には分からない、そして分からないからそれが知らないところで進んでいたり、いきなり思ってもみなかった状況や形で影響を及ぼしたりするものがあります。それは部族問題です。

 正直、私の印象ではこの部族問題は宗教問題よりも分かりにくいものでした。私の赴任先であったジンバブエはショナ族とンデベレ族という基本的には2大部族の国で、宗教は土着の宗教はあるもののこれも基本的にはキリスト教というアフリカでは非常に珍しい部族数が少ない、すなわち部族間の問題要素が低いであろうと思われている国でしたが、それでも様々な局面で本当に色々とありました。

 岩崎先生の赴任されるタンザニアは、ジンバブエどころではない数十部族プラス、キリスト教、イスラム教が混在する国ですから、とても気を回さなければならないことが多くて大変であろうとお察し致します。私の経験ではそれでもその部分はできる限り現地を理解する方が、現地での野球指導に於いても宜しいかと思います。

 

 次に今でこそインターネットや衛星放送で世界中で野球(主にMLB)を観ることができますが、やはりアフリカに於いてはまだまだ知名度が低いスポーツです。見たことのないスポーツを指導するというのはとても大変で、日本での野球指導では必要が無かったことまでいちいち説明しなければならないこともあります。よって、実際にプレーや練習するだけではなく、映像を見てもらうことを最大限に取り入れた練習をお勧めします。

 また当然ながら現地では野球道具が十分とは言えない状況での指導となりますので、道具を使わない、最小限の道具や動きでできる野球の練習でしかも楽しいという練習方法をいくつかご用意されておくことをお勧め致します。例えば、ファンゴ(日本でいうノック)をしなくても内外野のカットプレーや内野のフォーメーションプレーは出来ますし… ボールを使わなくても内外野のステップ等の練習は出来ますので…またその方が何倍も練習の効率が良いです。そして、技術練習の基本は試合(ゲーム)が一番だと思います。最初は試合になりませんが、「練習して試合」よりも「試合が練習」の方が早く全体的な理解がされたと感じました。

 

 あと、これは20年経ってもそんなに変わっていないと予測されるのが、膝の動き(曲げる動作)だと思います。個人的にはアフリカ全体的に膝を曲げるという動作が少なく感じます。地面に焚かれた火で料理をする時、床を掃除する時、地面の物を拾う時、(大自然の中でトイレをする時…これは他に理由があるのかもしれませんが…)、腰は曲げますが膝はあまり曲がっていません。脚も長いですし、この膝を曲げるというのが結構難しい問題になったりします。解決にはダンスも有効ですから、先生も是非ダンスをマスターしておいてください。

 

 最後に、現地では、何か起きたり、起きそうな怪しい雰囲気を感じたら、たとえ野球の練習中であっても速やかに安全そうな場所に移動して(逃げて!)ください。逃げるが勝ちです。

 また、タンザニアはマラリアやバクテリアによる食中毒等もありますので、決して体力的にご無理をなさらないようお気を付けください。

 

色々と生意気を申し上げましたがお許しください。先生のご成功を心よりお祈り申し上げます。