植えられた小さな種 

スポーツライター 会田泰裕

 

 ここはどこなのか?_ そんな思いが一瞬、脳裏をかすめる。_ ハラレ中心部の雑踏を抜け、サモラ・マシェル・アベニューを東へ、車を走らせる。窓を流れる景色が高層ビル群から住宅地へと変わる頃、ハラレドリームパークは姿を現す。

 

 澄みきった青い空の下、緑の芝生と少し顔を覗かせている白い土のコントラストが美しい。ハラレ中心部の都会特有の熱気とは違い、まるで誰も知らないかのように静かに佇む、アフリカに似つかわしくない立派な野球場が、異次元に迷い込んでしまったという錯覚を呼ぶ。このスタジアムが放つ独特の雰囲気はどこからやってくるのだろうか。

 

 ジンバブエ野球会のことを知ったのは、ひょんなことからだった。_ W杯サッカーアフリカ予選の取材で、南部アフリカに行くことになったため、何か情報はないかと、インターネットでいろいろ検索していた時、ジンバブエ野球会という試みを知った。個人の思いつきで異国の地に野球場を作ったという、自分の常識を超えた人に是非お話を聞いてみたいという思いから、伊藤さんにお会いした。お話を聞くと、今となっては伊藤さん個人の夢ではなく、多くの人々によって共有された夢であるという。様々な人の夢が詰まったスタジアムとは如何なるモノか、早く球場を見たいという思いは日に日に増して行った。

 

 現地に着き、伊藤さんに紹介して頂いた村井さんにスタジアムまで連れて行ってもらった。車で走っていると、とても野球場など姿を現さないような景色が続く。しかし家や木々に囲まれ、まるで宝物を隠すかのように、スタジアムはひっそりと佇んでいた。

 

 まず思ったのは個人でこんな立派な野球場が造れるのかという純粋な驚きだった。外野、内野ともに生い茂る芝生。ダイヤモンドを囲む綺麗な直線。そして圧倒的な存在感を示す、グラウンドで唯一高いことを許されたマウンド。その一つ一つがドリームパークという名に華を添えている。_ ふとグラウンドの外に目を向けると、決して大きいとは言えない観客席、窓ガラスが割れている更衣室などが見える。しかし、これらの不完全さが逆にさらなる可能性を感じさせてくれる。5年後、10年後、このスタジアムはどう変化しているのだろう。

 

 照りつける太陽に身を任せ、目を閉じ、耳を澄ませてみた。ピッチャーの息遣い、バットがボールをこする音、ボールがファーストミットに納まる小気味いい音。決して大きくはない人々の歓声。今にも聞こえてきそうだが、目を開けるとそんな幻聴も露へと消えてしまう。_ 実際にスタジアムで人々のプレーが見れなかったことは唯一の心残りだった。

 

 ハラレドリームパーク。_ 様々な人の尽力により、ジンバブエでも野球の認知度が高まってきているという。そしてジンバブエの子供たちは首都に初めて出来た、野球場でのプレーを夢見ていると聞く。_ 一人の小さな夢から作られたスタジアムは今、また新たな夢を作り出している。_ いつの日か、人々の歓声がグラウンド一杯に木霊するとき、また何人かの夢が叶い、そして新たな夢がつくられるとき、再びこのスタジアムに足を運ぼうと思う。足を運び耳をかたむけようと思う。多くの人々の思いが絡み合い独特の雰囲気を醸し出す、ハラレドリームパークという素晴らしいスタジアムで発せられる全ての音を聞くために・・・・・・。