溝畑智子のマラウィ便り ~サバンナの風

青年海外協力隊(マラウィ滞在)

溝畑智子

 

 サバンナの風に吹かれ、もうすぐ半年になる。何にもない所と聞いていたが、本当に何にもないと言うのが第一印象である。首都の空港に着いた時、"ここって本当に首都?同じアフリカなのにハラレとは全然違う!"と思い、アフリカに再度上陸した喜びよりも、ここでの2年間の生活にかなりの不安を感じたのを覚えている。

 派遣前訓練を受けたとは言え、英語が殆ど理解出来ず(同期8人で私が一番出来ない)、"?"で不安一杯の毎日だった。現地語訓練中には、約1週間のカントリーツアーと言って任地訪問を行い、このツアーで初めて首都から出た。首都を離れれば離れる程何にもない、行けども行けども景色は殆ど同じ。途中までは友達と一緒であったが、当然任地は違うので、途中からは一人。初めてのおつかい状態である。おまけに、マラウイの交通事情はかなり悪い。通常、ミニバスと言って日本の中古車(廃車)ワゴンに20人以上乗るもの、またマトーラと言ってトラックの荷台に乗るものが公共交通手段として使われている。交通マナーは殆どなく、重量オーバー、ハイスピード、またフロントガラスが割れ、メーターが動かない車も日常茶飯事。こんな車を私達は普段利用しているのだが、"慣れ"って本当に怖いものである。このツアーの頃はいつもドキドキし、友達のカバンにしがみついて乗っていたものだが、今では一人で任地から首都まで約500kmを2回乗り継いで行き来しているのだから。

 現地訓練後、マラウイの看護協会に登録する為に、私達(看護師3人)は、更に約3週間病院実習を行った。実習先は、首都の中央病院、エイズ患者対象の施設、県立病院の3箇所。マラウイにはDrがいないので、医療資格のない人が医療行為をしていることも多い。また注射の前後に消毒すらせず、清潔・不潔の区別もなく医療処置が行われている。物や人が不足しているとは言え、驚くことばかりであった。

 そして、9/6にやっと任地に赴任することが出来た。私の任地は、北部のルンピ県ムフジュという所で、山が多く、長閑な農村地帯といった感じである。ここにあるヘルスセンター(ここでは地域病院と呼ばれている)が私の活動場所。私の主な活動は、スタッフと共に村を巡回し、公衆衛生教育やマラリアやコレラ、エイズなどの感染予防教育、栄養指導などである。しかし、今はまだあまり活動らしきことはしておらず、外来を手伝ったり、乳幼児検診で、木にぶら下げた秤で体重を計り、予防接種をしたりしている。赴任後一ヶ月間に乳幼児がマラリアで3人も亡くなり、またエイズで亡くなる患者も数人いた。傷の処置では埃の混じった消毒液を使い、十分な麻酔をしないまま、刃しかない刃物で皮膚を切開したり…。昔テレビで見たドキュメンタリーを思い出し、正に野戦病院のような光景を目の当たりにして、ちょっとカルチャーショックを受けることもあった。しかし、ここで、どんな医療が提供され、どんな病気の人が居るのか知る機会となり、この情報を元に、これからの村での巡回指導に役立てていきたいと思っている。

 私の家は、配属先が用意してくれた職員住宅の一つで一戸建て、水道はあるが、電気や電話はない。毎日薪を燃やしてご飯を炊いたり、湯を沸かしたり、また夜は、ランプやローソクを使用している。事務所や隊員間の連絡は、貸与の無線を使用している。確かに不便さはあるが、"ない"なりに生活出来るもので、田舎育ちの私にとってはそれ程苦ではなく、日本にいた時よりもよっぽど健康的な生活をしている。

 配属先にも恵まれ(?) 、ここでの生活にも慣れ、何かと忙しい毎日だが、楽しんで過ごしている。1年前に感じていた向かい風は、今は止んでおり、この半年足らずがあっと言う間に過ぎてしまった。ただ、せっかく母がグローブとボールを送ってくれたのに、箱の中に入ったまま、野球が全く出来ない環境であることがちょっと辛いぐらいです。これから先、どんな風が吹くか分らないが、健康と安全にだけは十分に注意し、さまざまな風を感じていきたいと思っている。

 皆さんに、少しでもマラウイやここでの生活について知って頂けたら嬉しく思います。もし機会があれば、何にもありませんが、是非マラウイへも来て下さい。今後とも、よろしくお願い致します。