野球から始まって

伊藤益朗

 

4月初め、「南アフリカのプレトリアで南ア国内の州選抜同士の全国大会が4月末から開催され、ジンバブエナショナルチームが特別参加する」と村井氏から連絡が入りました。今まで一度もナショナルチームのゲームを見たことがない。ゴールデンウィークに大会があることなどめったにないことだ。どうしようかと迷った末、「これはやはり行くべきだな」ということにして、4月27日(土)7時40分、家を出発。28日早朝にヨハネスブルグに到着・・・。

 

ジンバブエの選手達は教会の施設で泊まっていました。彼らはゲームが終わったあと村井氏とマンディさん(27才、ナショナルチームメンバー、ジンバブエ野球協会会長)がスーパーマーケットで買ってきた材料を使って自炊をしているのです。今までの遠征ではハンバーガーなどの安いものを買って食べていましたが、今回は同じお金でも自分達で作ることで、より充実した食事をすることにしたのです。2ゲームを終えた疲れた体で、フライパンを持つその姿は楽しそうではありましたが、私には高貴な姿に見えました。又、ゲームが終わったあと、スタンドで次のゲームを見ているときも、南アの選手達はビール、スポーツ飲料、ハンバーガーを飲食しながらの観戦なのですが、ジンバブエの選手はほとんど余分なものは買わず、観戦していました。

 

今回私は、皆さんと一緒に応援してきたジンバブエの選手達と同じユニフォームを着てプレーするという、素晴らしい経験をしました。幸いヒットも出て、守備ではフライをひとつエラーしたものの、ゴロは全部さばくことが出来、挟殺もタッチプレーも何とかこなしました。そして、セカンドから次打者のヒットで3塁を回ってホームを一気に駆け抜ける、あのランニングと硬式の打席に入るという、52才の私にとって、もう味わえないと思っていたことを快感と共に経験できました。

 

 

 

このチームは、今回の大会でかなりよく戦えるようになっていることが分かりました。実際、南ア野球協会から次回の大会への招待がありました。また、毎年12月にハラレドリームパークで開催しているジンバブエ野球会後援の「ドリームカップ」に参加したいという南アのクラブも現れました。これらは南アの人々がジンバブエチームの力を認めて下さった証であると思います。

 

村井さんはマンディさんと共に、遠征出発前にメンバーに伝えたそうです。「この遠征の費用は日本にいる伊藤さんたちのグループの皆さんが、自分のお金の一部を自分の為に使わずに君らを応援する為に出して下さったものです」と。私たちは皆さんから頂いた会費をただお金として遠征という事業に充当するだけでなく、村井さんを通してジンバブエの選手や野球関係者に皆さんの温かい心を一緒に届けたいと願っています。そして彼らが思う存分プレーしている姿をこの目で確かめた喜びを皆さんにお伝えいたします。

 

彼らはそれぞれ地元に帰り、この遠征で得た貴重な経験という財産を、仲間や後輩に伝え広げてくれるはずです。皆さんから始まった心の連なりは広くジンバブエの各地で実を結ぶものと期待しています。そして、このようなつながり方が私たちの会が大切にする基軸であると思っています。「わずかな」といえば皆さんに失礼かと思いますが、全体を直接豊かにするには余りにもわずかといえる金額にも思いや願いを込めて、ほんの一握りの人に働きかけることが結果として大きな実りに至るのだとの確信を深めました。私たちの会の今後のカギは、金額の伸びより、野球に関わる彼らに対する温かい心や彼らの人生の幸せを願う心を込め続けることにかかっているように感じました。何卒皆さま、これからもよろしくお願い致します。

 

 

 

6月7日(金)、私は店を妻に任せて、東京に向かいました。前号でお知らせした中古自転車無償供与の件が、暗礁に乗り上げていたのです。昨秋、この無償供与が実現して自転車がジンバブエに到着しても、大統領選挙と時期が重なる為、村井さんが一時ストップを申し出ていました。

 

 大統領選挙が終了して、国内も落ち着きを取り戻しつつあると村井さんは判断し、計画の再開を申し出たところ、財団法人自転車駐車場整備センター様から「少し静観したい」という返答がありました。大統領選挙が世界か らの選挙監視団に「公正でない」と判定され、現状では送った自転車が目的に沿って配布されない恐れがあると判断されたためです。

 

送った自転車に乗って生活に生かしている人たちをイメージしてみると、「この話が消滅しても、私は痛くも痒くもないよ」という気持ちにはなれません。私は、担当の方が喜んで決断して下さるよう、根気よくお願いしたいと思います。

 

私は困っている人々がいても画期的に役に立つ技術や知識を持っていません。それでも「小さなことでいいんだよ。心をこめてそれをやろうよ。」と自分を励ましつつ、ここまでやってきました。日々前進するという自信はありません。しかし、私の稚拙な行動からでも何らかのヒントやつながりが出来て、より高い、より美しいことが生まれる可能性があることを私は疑いません。世界には本当に必要な業があると思います。しかし、私たちの多くはそのこととは無縁の今日の売上や利潤の為に過ごしがちです。「もっと美しいことの為に生きたい」という思いが心に浮かびますが、私の傲慢なのかもしれません。

 

私はまたしてもアフリカまで出かけ、贅沢な散財をしました。預金も減り、仕事も余分に3日間休み、家も1週間空けて責任を放棄しました。

 

しかし、迷った挙句に出かけた今回の南アフリカで、行かなければ味わえなかった収穫を抱えて帰って来たことは本当です。私はこれを単なる贅沢で終わらせたくはないと思っています。